私たちの生活に最も身近な政治、例えば町政。意外と知らないコト・誤解しているコトは多い。この連載は改めて見つめなおそうという趣旨だ。
まずは地方議員、いうなれば町会議員への誤解からひも解く。「国会議員と同じように、町会議員には行政に『口利き』するチカラがある」というのは事実だろうか。結論から言えばそんなチカラは「ない」。
国のトップで最高権力者の首相は、国会議員の投票で選ばれる。だから国会議員ひとり一人(実際には与党の議員)は、首相(=行政権力。各省庁を含む)に対し隠然たるチカラを持つと考えるのが自然だ。全員とは言わないが、この関係は「口利き」に簡単につながるだろう。
かたや県や町のトップで最高権力者の「知事」や「町長」は、住民が直接投票する。地方議員は関与しない。国会議員と異なり、町の議員には「あなたを町長にしたのは私の一票のおかげですよ」という「貸し」はない。
こういった仕組みをよく知らず「議員」と名がつくものは、国会だろうと町議会だろうと「行政トップに隠然たるチカラを持っている」と信じ込み、「口利き」を頼める、と誤解している住民は多いようだ。
議会の役割は究極のところ「事業予算案の審議」と「条例の制定改廃」だが、これは地方議会の実態に近い。行政トップを決める選挙で「恩義」がない地方議員に「口利き」を住民が期待することは極めて非現実的なのだ。
この実態を知らない、区別できていない住民の多くは、今でも地方議員に何かを実現しろと迫る。町長が「絶対的な最高権力を持っている」行政の仕事に、議員個人が介入できるはずもないのに、安請け合いする議員個人も少なからず存在するだろう。このような状態では地方議会はまともに機能しない、というところまで前回説明した。
住民が「議員個人に意見を伝える」のはとても有意義で大切なことだ。要望にしても「私は○○を実現してほしいと願っている」という思い=「意見」を議員個人に伝えるのは大変良いことだと思う。誤解しないでほしい。
弱き立場の人、公的福祉を必要としている人、プライバシーを保ちつつ行政への苦情がある人などは、議員個人を介在するのは有効だろう。あなたと行政をつないでくれる、せっかくの議員をどんどん使うと良いと思う。
議員個人に「おまえの個人のチカラで行政を動かして○○を実現しろ」と「要求」することが不自然なのだ。何度も言及した通り、議員個人にそんなチカラは「ない」。
もしあなたに、実現してほしい要望があるならば、行政(=町長や町役場)に直接伝えるのが一番早い。もし行政の対応がイマイチだったとしたら、議員「個人」ではなく「議会」を使う方法がある。
いわゆる「陳情」とか「請願」といわれる仕組みを使うのだ。これは憲法で保障された私たちの権利で、未成年でも外国人でも使える。住民から「陳情」「請願」が正式に議会に提出されたら、議会はこれを審議して住民の要望を「採択する」「しない」を多数決で決める。
議員個人ではなく、「議会」という集合体が多数決で出す結論には、それなりのチカラがある。「隠然たる」というような怪しいものではなく、法で保障されている公明正大な議会の「権能」であるのだ。
「議員個人」と「議会という集合体」。この区別ができない人の多さに驚く。改めて理解してほしい。国会議員と異なり、地方の議員個人には何のチカラも「ない」と言っていいだろう。しかし議員の集団である「議会」には、法で定められた「きちんとしたチカラ」がある。議会は常に多数決で意思を示す。その決定にチカラがあるのだ。
ところで、市町村が運営する観光施設などが巨額の負債を抱えて破綻した、などというニュースを聞くことがあるだろう。これまでつぎ込んだ「あなたの税金」は無駄になり、借金の補てんに「あなたの税金」が使われる。怒り心頭の住民から「議会は何をやっていたのだ」という非難の声が上がることが多い。
「議会は何をやっていたのだ」――――この表現に私はいつも疑問を抱く。破綻した施設の経営は、町長をトップとする「行政」の仕事だったはずだ。無駄な設備投資や市場動向を顧みない放漫経営の結果、破綻することがほとんどだ。
さて議会の仕事はなんだったのか。施設の経営中に町が「設備を新設するから、税金を○○円使いたい」と予算案を立てて、議会に承認を求める。議員たちは質疑し、協議し、最後は「多数決」で「税金を○○円使うこと」にYESかNOで評決する。
議員個人を見れば、施設の運営に懐疑的で「税金を投入すべきではない」と主張する者もいる。しかしその議員個人がNOの立場を貫いても「多数決」に負ければ「議会という集合体の結論」は、税金を使うことにYESとなる。
批判するのであれば、YESの立場で税金をつぎ込むことに「賛成した議員個人」を対象にすべきだ。にもかかわらずNOと主張し続けた「議員個人」も何もかも一緒くたに「議会は何をやっていたのだ」と批判する。それは「議員個人」と「議会という集合体」の区別ができていない証拠だろう。
そういう私だって議員になるまで全くの無知だった。中高年になっても学ぶべきことは多い。
(はこべ2023年11月号掲載。次号に続く)